気候変動への取組み
気候変動に関する認識
2015年に採択されたパリ協定は、世界の平均気温の上昇を産業革命前の2℃よりも十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求することを目標とする国際条約です。この目標達成のためすでに多くの国や地域、またあらゆる産業において、2050年までに温室効果ガスの排出(以下、「GHG排出」)を削減する為の取組みや規制が強化されており、GHG排出規制強化も継続的に議論されています。
また、IPCC報告書(注)によれば、主に人間活動による温室効果ガスの排出が地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がなく、既に世界中において熱波の頻発や、極端な大雨といった自然災害の増加をもたらしています。
本投資法人は気候変動は中長期的な投資主価値の最大化に重大な影響を与える課題であると認識し、マテリアリティの一つとして位置付けるとともに、2050年までにバリューチェーン全体のGHG総排出量ネットゼロの達成を目指してまいります。
(注)国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書統合報告書
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、金融安定理事会(FSB)により、気候関連の情報開示および金融機関の対応をどのように行うかを検討するために設立された組織であり、企業等に対し、気候変動に対する「ガバナンス」「戦略」「リスクと機会」「指標と目標」について開示することを推奨しています。
本資産運用会社は2021年12月にTCFD提言への賛同の表明を行い、国内のTCFD賛同企業による組織であるTCFDコンソーシアムに加入しました。
本投資法人は、気候変動に関するリスクと機会が本投資法人の事業に与える影響を把握するとともに、それらへの対応及び情報開示を推進します。
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開示項目 | 開示内容 |
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ガバナンス | 気候関連リスク及び機会に関する当該組織のガバナンス |
戦略 | 組織の事業・戦略・財務計画に対して気候関連リスク及び機会が増える実際の影響及び潜在的な影響 |
リスク管理 | 気候関連リスクを組織が識別・評価・管理するプロセス |
指標と目標 | 気候関連リスク及び機会を評価・管理するための指標と目標 |
ガバナンス
本投資法人は、気候関連の戦略、リスクと機会の特定、指標と目標設定及びそれらへの対応について、本資産運用会社のサステナビリティ委員会にて審議・決定し、取締役会に報告しています。
本資産運用会社におけるサステナビリティ(気候変動への対応を含みます。以下同じです。)に関する推進体制は、「サステナビリティ推進体制図」ページをご参照ください。
戦略
1.シナリオ分析
本投資法人では、気候変動が本投資法人に与えるリスクと機会を把握し、それが事業に与える影響を検討するために複数のシナリオを参照した分析を実施しました。
<シナリオ分析の前提>
本投資法人は、各国際機関等が公表している将来的な気候予測を主な情報源としてシナリオ分析を行いました。本投資法人が参照した主な情報源は、下表のとおりです。また、気候変動リスクは、「移行リスク」と「物理的リスク」とに大別することができ、移行リスクと物理的リスクの関係は、完全に独立ではなく相互に依存、もしくはトレードオフの関係にあると考えられています。
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気候変動リスク | 主に参照した情報源 | |||||
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移行リスク | 脱炭素社会を実現するための新しい規制、税制、技術等によって生じるリスク |
IEA(国際エネルギー機関)World Energy Outlook 2022
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物理的リスク | 気象の変化等、気候変動そのものによって生じるリスク |
IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書(AR6)
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【4℃シナリオ】
4℃シナリオは、法規制の強化が進まず移行リスクは比較的小さく抑えられるものの、世界の脱炭素に向けた取組みに進展が無かったことから災害が激甚化し、物理的リスクが非常に高くなると想定されているシナリオです。
【1.5℃シナリオ】
1.5℃シナリオは脱炭素社会を実現するための厳しい規制及び税制等が実地されることで、温室効果ガスの排出量が削減傾向となることを前提としており、物理的リスクは低く、移行リスクは高いシナリオです。
2.気候変動リスクと機会の識別及び財務的影響の検証
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分類 | 関連 | 区分 | 財務的影響 | 財務的影響の度合い | |||||
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1.5℃ | 4℃ | ||||||||
中期 | 長期 | 中期 | 長期 | ||||||
移行リスク | 政策と法 | 炭素税の導入による課税の強化 | リスク | ポートフォリオのGHG排出量に対する税負担の増加 | 小 | 小 | 小 | 小 | |
不動産における省エネ基準の強化 | リスク | ポートフォリオの改修費用の負担増加 | 小 | 小 | 小 | 小 | |||
テクノロジー | 再エネ・省エネ技術の進化・普及 | リスク | ZEB物件の取得 省エネルギー設備導入・再生可能エネルギー調達費用の増加 |
小 | 小 | 小 | 小 | ||
省エネ・再エネ対応によるコスト削減 | 機会 | 外部調達する光熱費の削減 | 小 | 小 | 小 | 小 | |||
市場 | 気候変動に対応していない市場参加者の調達条件悪化 | リスク | 資金調達コスト上昇、資金調達の難易度上昇 投資口価格の低下 |
小 | 小 | 小 | 小 | ||
テナントからのグリーンビルディングへの需要拡大 | リスク | 新規テナント誘致が難しくなる リテンションが低下することによる賃料収入の減少 |
大 | 大 | 小 | 小 | |||
テナントへのグリーンビルディングの提供拡大による新規テナントの開拓 | 機会 | テナント誘致による収入増加 ポートフォリオの稼働率向上 |
大 | 大 | 小 | 小 | |||
新規投資家層の開拓・啓蒙 | 機会 | グリーンボンドの活用 ESGを重視する投資家への対応・訴求を行うことによる、資金調達量の増加、調達コストの低下 |
大 | 大 | 小 | 小 | |||
評判 | グリーンビルディングの未整備によるブランド価値の低下 | リスク | ブランド力低下による賃料プレミアムの減少 資金調達コストの上昇 |
大 | 大 | 小 | 小 | ||
物理的リスク | 急性 | 台風、集中豪雨、洪水の増加 | リスク | 修繕費・保険料の増加 ポートフォリオの稼働率低下 |
小 | 小 | 小 | 小 | |
レジリエンス性能の高いポートフォリオの構築 | 機会 | 修繕費・保険料の低減 ポートフォリオの稼働率向上 |
小 | 小 | 小 | 小 | |||
慢性 | 海面上昇による海抜の低い物件等の浸水 | リスク | 大規模改修(嵩上げ)の必要が生じる ポートフォリオの稼働率低下 |
小 | 小 | 小 | 大 | ||
異常気象による空調需要の増加 | リスク | 空調設備の新設(増設)・運転時間・修繕費用(メンテナンス)の増加 | 小 | 小 | 小 | 小 |
(注)中期:2030年時点、長期:2050年時点を想定しています。
3.財務的影響の定量分析
P/Lへの事業インパクトの整理
特定した気候関連リスクと機会の財務影響定量分析結果
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分類 | 関連 | 区分 | 財務的影響 | 財務的影響の度合い(百万円) | |||||
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1.5℃ | 4℃ | ||||||||
中期 | 長期 | 中期 | 長期 | ||||||
移行リスク | 政策と法 | 炭素税の導入による課税の強化 | リスク | 炭素税の増加 | ▲19 | ▲48 | 0 | 0 | A |
機会 | 省エネ改修・再エネ導入による炭素税の回避 | 9 | 44 | 0 | 0 | A’ |
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テクノロジー | 不動産における省エネ基準の強化及び省エネ・再エネ技術の普及 | リスク | 省エネ改修費用の増加 | ▲4 | ▲37 | 0 | 0 | B |
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リスク | 再エネ導入費用の増加 | ▲14 | ▲22 | 0 | 0 | B |
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機会 | 省エネ改修、再エネ導入による光熱費の削減 | 13 | 31 | 0 | 0 | B’ |
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市場 | 気候変動に対応していない市場参加者の調達条件の変化 | リスク | 気候変動への不十分な対応による資金調達コストの増加 | ▲14 | ▲45 | 0 | 0 | C |
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機会 | 気候変動へ対応することによる資金調達コストの減少 | 14 | 45 | 0 | 0 | C’ |
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テナントからのグリーンビルディングへの需要拡大 | リスク | 環境認証の未取得による賃料収入の減少 | ▲638 | ▲3,460 | 0 | 0 | D |
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機会 | 環境認証割合の向上による賃料収入の増加 | 638 | 3,460 | 0 | 0 | D’ |
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リスク | 環境認証の取得費用 | ▲8 | ▲14 | 0 | 0 | E |
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物理的リスク | 急性 | 台風、集中豪雨、洪水の増加 | リスク | 被災による賃貸収入の減少及び修繕コストの増加 | ▲95 | ▲99 | ▲99 | ▲137 | F |
機会 | 浸水対策による被害の縮小 | 5 | 5 | 5 | 7 | F’ |
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慢性 | 異常気象による空調需要の増加 | リスク | 気温上昇による電力料金の増加 | ▲17 | ▲54 | ▲22 | ▲107 | G |
(注)
①中期:2030年時点、長期:2050年時点を想定しています。
②2023年8月末時点のポートフォリオを起点としています。
■1.5℃シナリオ
移行リスクが増大。ポートフォリオでの環境認証の有無が賃料収入の増減に大きく影響するが、対策を講じることによって営業利益の減少を抑制。
■4℃シナリオ
物理的リスクが増大。風水害による物件毀損や賃料収入の減少等が一定程度見込まれるものの、レジリエンスの高いポートフォリオの構築により、営業利益は微減と想定。
本試算は、本投資法人の事業範囲の一部について分析したものであり、全体の影響を評価したものではありません。日本およびグローバルの政策動向等を踏まえ、試算対象項目における前提条件の考え方や対象項目の拡大等、更なる分析の深化に向け継続的に検討してまいります。
※本試算は、本投資法人の運用実績等を踏まえ、主要機関が提示するシナリオや文献等の各種パラメータを参考に試算した年間の影響額であり、その正確性を保証するものではありません。また想定する対応策についても、試算上の想定であり、実行を計画・決定したものではありません。
CRREMによる分析
CRREM(Carbon Risk Real Estate Monitor)は、パリ協定の2℃及び1.5℃目標に整合する、GHG排出量の2050年までのパスウェイ(脱炭素経路)を不動産の用途ごとに算出し、公表しています。本投資法人は、CRREM 1.5℃の脱炭素経路と保有不動産のGHG排出パフォーマンスを比較の上、物件単位の移行リスクを評価し、ポートフォリオの脱炭素化に向けた対策の参考としています。
ロードマップ
本投資法人では、GHG排出削減に向けた移行ロードマップを策定し、排出削減にかかる新KPIを設定しました。今後は、「2050年度までにバリューチェーン全体のGHG総排出量ネットゼロの達成を目指す」ことを目標に掲げ、その達成に向けた各施策を着実に実行していきます。
気候変動リスクに対する本投資法人の対応
本投資法人では、こうした気候変動の「移行リスク」及び「物理的リスク」に対して、GHG排出削減やエネルギー効率改善のためのグリーンプロジェクト、環境認証の取得等、様々な対策と具体的アクションを推進しています。
具体的な取組みは以下の通りです。
<非化石証書の計画的な購入>
本投資法人のロードマップにおける再生可能エネルギー導入推進の一環として、環境価値の活用を掲げており、2021年度から保有物件の電力消費量の一部について、非化石証書を購入し、再エネ化を図っています。今後も計画的に非化石証書を購入し、GHG排出量の削減を実行していきます。
<運用不動産における環境への貢献>
https://mel-reit.co.jp/ja/esg/environment/contributions.html
リスク管理
本資産運用会社におけるサステナビリティに関するリスク管理体制は下記のとおりです。
投資判断時:運用資産の新規投資にあたっては、デューデリジェンスプロセスのなかで、気候変動リスクに対する各種調査を踏まえたうえで、経営会議にて投資判断を行っています。具体的には、対象物件の洪水・冠水可能性につき、各種ハザードマップによる浸水レベルや浸水履歴、治水工事等の実施履歴を調査・確認しています。また、環境認証の取得有無を含む環境・省エネ設備の有無、BCP対応状況等を確認しています。
運用時:サステナビリティ委員会において、気候変動リスクを含むサステナビリティに関連したリスク全般の管理、モニタリングを実施しています。具体的には、保有物件の環境パフォーマンスのモニタリングや、各種目標(詳細は下記「指標と目標」参照)に対する進捗状況の管理を行い、それを踏まえた必要な対策を適宜、検討しています。
指標と目標
本投資法人は、気候変動に代表される環境課題の解決が本投資法人の持続的な事業とその実現に向けた事業戦略において重要な経営課題であると認識しています。 こうした認識のもと、本投資法人は、低環境負荷物件への投資と、保有物件における環境・省エネルギー対策等の運用を通じたエネルギー利用の効率化とGHG排出量の低減に取組み、低環境負荷ポートフォリオの構築を目指しています。
保有物件のグリーン化
《目標 (KPI)》
- ポートフォリオの環境認証取得割合を2030年度までに100%まで向上させることを目指します。
環境パフォーマンスの向上
《目標 (KPI)》
- ポートフォリオのGHG排出量(Scope1,2)を2030年度までに42%削減することを目指します。(2021年度基準)SBTi
- 2050年度までにバリューチェーン全体のGHG総排出量ネットゼロの達成を目指します。SBTi
- ポートフォリオのエネルギー消費量(原単位)を2030年度までに15%削減することを目指します。(2017年度基準)